複数の美形な異性からモテるわけでもない。世界を救うわけでもない。
「うたかたダイアログ」は、本当にその辺りにいそうな高校生男女による日常コメディーだ。
繰り広げられるのは、とてもためになるとは思えない話。無駄話と言ってもいいだろう。
でもその無駄話が、どうしようもないくらい楽しそうで羨ましい。
ひたすら楽しい、主人公二人を中心とした会話劇。
ずっとずっと、読んでいたいほどに魅力的だ。
あなただから、からかいたい。「からかい上手の高木さん」を楽しめる幸せ - いつかたどり着く
会話の端々に溢れる残念さがいい!
この物語は、とあるショッピングモールで働く女子高生の宇田川と、男子高校生の片野。
片野は金髪チャラ男という見た目に反して、作中随一の純情キャラ。
一方の宇田川は、サバサバ系女子とも違うシュールさを持っていて、それを表情をあまり変えずに出してくるからおもしろい。
青春浪費系とうたっている「うたかたダイアログ」だが、そこは思春期の男女、恋の1つくらいは登場する。
片野は宇田川に恋をしているのだけれど、これがもう残念さ全開で。
「付き合ってくれない」という言葉から、人生の終わりまで連想するこの発想力よ……
コイツどんだけ宇田川のことが好きなんだ……、なんて読者も思わずツッコミたくなるボケっぷり。
目がマジだから、声を出して笑ってしまう。
ボケだけどボケじゃない。この残念っぷりが片野クオリティ。
当事者の宇田川も、普通なら引きそうな場面にもかかわらず、キレのあるツッコミ1つで終わらせる猛者っぷり。
冷静かよ、とこちらはこちらでツッコミたくなってしまう。
忘れてはいけない、この二人は同じくらい変わっているのだ。
しかし残念さで言えば、片野の方が一歩リードしている。
それは惚れた弱みに近いものかもしれない。
なんというかチョロい。全体的にチョロい。
なんでコイツは照れてるんだろう……
宇田川の言葉を好意的に解釈することにおいて、作中で片野に比肩する人間はいないだろう。
そこに少しでも「褒め要素」が入っていれば、片野くんはちょっとキュンときてしまうのだ。
がんばれカタノット お前がナンバー1だ(チョロさ的な意味で)
楽しすぎる会話劇を、ずっと見ていたくなる
この作品は、言葉のチョイスが本当に絶妙だ。
二人を中心に、登場人物のボキャブラリーが豊富で思わず感心してしまう。
片野くんが角度によってはイケメン、というセリフは出てくるかもしれないけど、そのあとの「トリックアートみたいな感じで」は、常人だったら逆立ちしても出てこない。
それに対する反応やツッコミが合わさると、楽しくて仕方ない会話劇になってしまう。
こんなの絶対楽しいに決まっている。
キレッキレの宇田川のボケと、間髪入れずに叩き込まれる片野のツッコミ。
芸術的なテンポ感と言っても、過言ではないだろう。
流れるように繰り広げられる会話劇に、ニヤニヤが止まらなくなってしまった。
生産性なんてなくて、こういうムダな会話が終始繰り広げられている。
それがどうして、こんなに楽しいか思わずまじめに考えてしまいそうになる。
でもすぐに分かった。
何気ない会話が楽しい、ということは誰だって一度は体験したことがあることだ。
二人が表立っていうことはないけれど、片野も宇田川も二人でする無駄話が楽しくて好きなのだ。
その楽しさが溢れて読者にも伝わってくる、きっと本質はここにあるのだろう。
もちろん二人の言葉のチョイス、反応、ツッコミすべてが高レベルというのも大きいし、あと何かこいつらかわいいのだ。
二人がかわいくて、楽しそうに会話している姿を見ていると、少し幸せな気持ちにさえなってしまう。
こいつら二人ともかわいすぎるだろいい加減にしろ!
ちょっと変わっていて、それでいて素直とかいう愛すべきキャラの二人。
そんな二人が織り成す会話劇が、楽しくないはずがないのだ。
今回の記事は二人に着目して書いているけれど、他のキャラのツッコミも非常に秀逸。
大体片野がツッコミ入れられる展開。残念系男子だからね、仕方ない。
読み終わった後の、幸せな読後感が約束されているこの作品が好き。
ずっと読んでいたい会話劇が、ここにあるのだ。
終わりに
今更プッシュするような作品でもないけど、もっともっと読まれてほしい。
1巻の帯をそれ町の石黒正数先生が書いているけど、それ町のような会話劇が好きな人は、絶対に「うたかたダイアログ」にもハマるはずだ。
少女漫画だけど、男性にも強くおすすめしたい。
片野みたいな男子高校生を男性は好むし、宇田川みたいなヒロインなんて男性は大好きなんだよなあ。
ずっと続いて欲しい会話劇を、ぜひ体験してもらいたい……
※試し読み
www.cmoa.jp
画像引用元
うたかたダイアログ/稲井カオル/白泉社
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