作中のキャラが持つ、何かを「愛しい」と思う気持ち。これが伝わってくる作品は、本当に素敵だと思います。
塩田先生と雨井ちゃんという作品が、まさにそうでした。この漫画は、愛しさに溢れています。心からおすすめしたいから、記事にする。
どこが好きなのか。ちょっと不思議な二人の関係
塩田さんは高校先生です。雨井ちゃんは女子高生です。二人は教え子と教師という、陳腐な表現をすれば禁断の関係です。
雨井ちゃんは可愛い女の子で、塩田先生は身だしなみを整えれば男前ですが、ボサボサ頭でパッとしないタイプの先生です。
実は作中で、お互いがどこを好きなのかというのが明らかにされていません。雨井ちゃんは、塩田先生のどこが好きになったのか。
とりあえず、外見ではないことは、はっきりと分かります。
塩田先生の髪を抜いてハゲにしようとし、ついでにデブにもしようとしていたくらいですから。
雨井ちゃんの恐ろしいのは、実際に行動しているところです。塩田先生の髪の毛、読んでる私が思わずビビるくらいガッツリ抜かれました。あれだけ抜かれると凄い痛いはず。物理的にも精神的にも大ダメージ。
食事では脂っこいものを食べさせて、太らせようとしていました。実際5キロ増えていたようです。恐ろしい子。
なぜこんな行動をしたかと言うと、先生が醜くなれば、モテなくなるだろうという魂胆らしい。ボサボサ頭でも、女生徒からの人気は高いそうです(雨井ちゃん談)
ハゲデブでも愛せるのかという問いに、「むしろ」と目を輝かせる雨井ちゃんは、只者ではないと思いました。ハゲデブが好きなわけではなく、塩田先生が好きとのことでしたが。外見ではなく中身が、雨井ちゃんに取っては塩田なんだということが分かりました。
雨井ちゃんがちょっと変わった女の子なのは間違いありませんが、塩田先生もちょっと変わったことを仕掛けたりします。尾行している雨井ちゃんに気づきながら、そのまま放置して散歩しているようで、実は自分だけデートしているように楽しんでいたり。
最初から気づいていて、笑いを抑えながら歩いていたそうな。でもこの一言で、先生と他の女生徒の会話を寂しそうに聞いていた雨井ちゃんが、明らかに嬉しそうになる。
見えないけど、ちゃんと雨井ちゃんの気持ちを分かっている。これがたまらなく良いシーンで。
デートだと思って読み返してみると、同じものを見たり、嗅いだり、食べするなど、確かにデートらしいことをしています。
作中で言及はされてはいませんが、同じものを食べるために粋なことを塩田先生はしていたと思われます。
塩田が買った直後に雨井が同じ店を訪れますが、タダで塩田と同じチェロスをもらいます。雨井ちゃんは「こんなこと初めて…」って言っていますが、そんなに都合よく1万人目にあたるわけがありません。
ほぼ間違いなく、塩田が雨井のためにあらかじめ代金を払い、店の人に渡してもらえるようにしたのでしょう。これは間違いなくデートです。だって、こんなに愛しさが伝わってくるんだから。
溢れてくる、愛しさ
デートのシーンも愛しさが伝わってきますが、塩田先生が風邪を引いた時は、更に伝わってきます。
いや、伝わってくるというレベルではない。溢れてくる。
風邪を移したくない塩田を強引に言いくるめて、無理やり看病のために部屋に上がる雨井ちゃん。虚ろな意識の中、昔のことを思い出しうわ言で「いかないで」という塩田。
それをキスで静かにさせてしまう雨井ちゃん凄いと思ったら、本当に凄いのはその次だった。
好きといったわけではない。愛しているといったわけでもない。
それなのに、このシーンはどうしようもないほど愛しさで溢れている。
雨井ちゃんがどれだけ先生を愛おしく想っているか、ここだけで読み取れてしまいます。ため息が出るほど、魅了されてしまった。
二人のやり取りの端々から、愛しいという気持ちが伝わってきて、私は幸せな気持ちになってしまいます。
この漫画はwebで掲載されたものを収録しているようですが、描きおろしのエピローグがまた素晴らしくて。
今回はあえて触れていません。実際に読んで、感じてみて欲しい。雨井ちゃんの、そして塩田の、相手に対する愛しさで、溢れているから。
素晴らしい作品に、出会ってしまいました。心からおすすめします。
興味がある方は、まずはweb版をどうぞ。