いつかたどり着く

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「GOD SPEED」少年は、天使に牙を向く。心震えるダークファンタジーに、出会ってしまった件

高畠エナガの作品を、心から待ち望んでいました。


力強く、優しくて暖かい。
そんな短編が多かった高畠エナガが描いた連載作品は、楽園から逃げ出した少年と悪魔の壮大なファンタジーでした。


GODSPEED 1 (ヤングジャンプコミックス)

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圧倒された。
絶望に震え、それでも立ち上がる少年の姿に、心が震えてしまった。

閉ざされた聖峰


清らかな魂を持つ人間を悪魔から守るための場所、それが主人公・明の住む聖峰でした。
そこは天使たちが子供を守り、子どもたちはそこで健やかに成長していきます。


何となく、天使というと人間と同サイズをイメージしがちですが、この漫画の天使はデカイ。


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人間を手のひらで、包めるような大きさです。
このシーンを見た時、天使の人間に対する愛おしさを見た気がしました。


後に、これが間違いだったことに気がつきます。
いや正確には、愛おしいと思っている理由が根本的に違ったのですが……


子どもたちは14歳になると聖峰を卒業し、楽園と呼ばれる場所で暮らすようになります。
明の兄貴分的な存在のバーナードも、明たちより一足早く楽園に旅立って行きました。


明たちもまた、数日後に卒業を控えています。
昔見た外の風景に、憧れを持っていた明は、天使たちに内緒で友人たちと共に外で抜け出しました。


満たされているとは言えない、聖峰とは異なる人々の暮らし。
初めて見る、大人の姿。


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そう、14歳で卒業する聖峰に大人は存在しません。
天使もまた、少女と呼んでもおかしくない姿をした者ばかりでした。


知らなかった現実と、次々と浮かぶ疑問。
明たちはこの街で、天使の違った姿を見ることになりました。


聖峰とは何か。楽園とは何か。
怪我をした明は、幼なじみの利乃が楽園に旅立つのを見送る立場になりました。


引き止めることができなかった彼の前に、天使と対になる存在・悪魔が現れます。
彼女の力を借りて、彼は楽園への扉を開きます。


そこで待っていたのは、信じたくない現実。


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幼なじみたちの、無残な姿。
手を加えられた後のある肉体は、明らかに何かがおかしい。


そして目の前で体が膨らみ、中から出てきたのは天使。


聖峰という場所は、死んだ天使を復活させるために、代わりの肉体を育てる場所。
楽園は、適正のある人間を媒体として、天使を復活させる場所でした。


加工された肉体。膨張し、天使の姿へと変貌するあのシーンは、人間としての尊厳が踏みにじられていて、どうしようもなく胸が痛んだ。

そして少年は天使に抗う


幼なじみたちの変わり果てた姿を見て、遂に真実に辿り着いてしまった明。
積み上げてきた、これまでが崩れていく。


天使たちは人間が愛おしかったのではなく、天使の体になり得る人間が愛おしかったという現実。
生きてきたこれまでが揺らぐ。生きていく理由が揺らぐ。


それでもただ膝から崩れ落ちるのではなく、彼は想いを吠えました。
無駄だと分かっていたかもしれない。それでも、吠えずにはいられなかった。


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ここで注目して欲しいのが、4人の天使の表情。
下二人の天使は、明の言葉に動揺しているのが分かります。


草花の天使・セラフィと、成長の天使・イグザロープです。
特にイグザロープは成長の天使ということもあり、恐らく聖峰の子どもたちと接する機会は他の天使より多かったのでしょう。
いや、想い入れが強いという方が正しいかもしれない。


成長という概念は、恐らく天使や悪魔にはありません。
この世界においては、成長とは主に「人間」が行うもの。
特に子どもたちの成長は、人間の一生という枠を考えた時、最も成長する期間になります。
想い入れがないわけがない。


天使全てが、この現状に何も思っていないわけではないことが分かるシーンでした。


それでも、現実は非常で。明を置いて楽園に旅立った利乃もまた、肉体を改造され天使化を待つ段階に入っていました。
元に戻す方法は分からない。成功したという話もきかない。


それでも、聖峰の外に可能性を求めて、少年は運命に抗う。
力を得るために、自分から天使の心臓を飲み込むシーンは心が震えました。


天使に抗うということは、これまでの生活を否定すること。
偽りだったとしても、楽しかった思い出を捨て去ること。


飲み込む前に思い出すのは、天使たちとの楽しかった日々。
それらは本当に楽しそうで、偽りの日々とは到底思えませんでした。
明もまた、それが偽りの日々だったと信じたくはなかったでしょう。あの楽しかった日々が、偽物だったなんて。


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心臓を飲み込んだ後の彼の表情が、全てを物語っています。
どうしようもなく切なくて、震えてしまった。


少年の旅が始まりました。
幼なじみを救うための、悪魔との冒険の旅が。


今回ほとんど触れていませんが、明を導く悪魔は当然重要な存在です。
彼女もまた、大切な人を天使から救うため悪魔の心臓を食べた人間でした。


オリヴィエという名前なんですが、可愛いです(ここが重要)
主人公からは当初痴女呼ばわりされてますが、私は素敵な衣装だと思うなあ(ぉ


壮大なスケールの、読者を圧倒する力を持ったファンタジー漫画に、出会ってしまいました。
高畠エナガが好きでよかった。心からそう思っています。

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高畠エナガ短編集 1 Latin

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高畠エナガ短編集 2 100

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