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「初恋ゾンビ」の秘め事と江火野さん

まず最初に宣伝させて下さい。
『初恋ゾンビ』作者の峰浪りょう先生のファンと化している私ですが、今回初めて自ブログ以外のメディアで峰浪りょう作品の単独レビューを書くことができました。


lab.comic.k-manga.jp


『ヒメゴト~十九歳の制服~』は非常に濃い作品で、上記記事を書くのも非常に苦労しました。
私はライトに楽しめる作品の感想が得意なので、最近の初恋ゾンビ感想も実は時間がかかっています(笑)


『ヒメゴト~十九歳の制服~』という作品については、上記レビューを読んで頂くとその濃厚さが伝わると思います。
で、この作品はタイトルの通り、主要キャラには表に出せない『秘め事』があります。
峰波りょう先生のキャラは、大なり小なり何かを秘めているのかもしれない……とふと思うことがあって。
今回はそういう観点で、『初恋ゾンビ』の秘め事と、江火野さんについて書いてみようかなと。


※雑誌のネタバレが含まれているので、単行本派は注意


初恋ゾンビの秘め事


『初恋ゾンビ』の秘め事は、何が思い浮かぶでしょうか。
大半の場合は、自分に関する秘め事と、自分から他社への感情というのが初恋ゾンビの秘め事でしょう。
指宿くんの秘め事は、本当は女性であることと初恋ゾンビが見えることでしょう。
タロウへの気持ちも秘め事かもしれませんが、最近全く秘められてないんだよなあ(チョロスキくん……)


タロウの秘め事は、結構面白いなあと個人的には思っています。
指宿くんと同様、初恋ゾンビが見えることを秘めているというのもありますが、面白いのは恋愛方面の秘め事。


気づいていることを自分にさえ秘める。
……という部分です。
それは指宿くんの性別だったり、あるいは指宿くんや江火野さんの気持ちだったり。


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タロウの秘め事


指宿くんのタロウへの気持ちと違い、自分自身にさえ秘めている(気づかないふりをする)感じが面白いんですよね。
それに気づいてしまうと、自分が大切にしたいと思っているものが崩れてしまう可能性があるから、自分自身にさえ秘めて自覚しないようにしているというのが、他のキャラには見られない秘め事だと感じています。
あとはイヴと共に生きるということを、指宿くん以外には秘めているというのもありますね。


ではイヴはどうでしょうか。
タロウがイヴを選んだことで、基本的には秘め事はないように思えます。
ただし、恐らくではありますが、イヴはより自立した初恋ゾンビになったことで嘘がつけるようになっている。


今は秘め事はないかもしれませんが、持ちうる可能性はある……という感じでしょうか。
最も、この場面で嘘をついているのでは?と思う場面もあったので、すでに何かしらの秘め事を持っている可能性はありますが。


他にも、指宿くんとタロウは自分が初恋ゾンビが見えることを秘めていますが、相手が見えることも秘めています。
※まあこれについては……最新話読んで下さいという部分もあるんですが


こうして見ると、終盤に差し掛かろうというのにまだ秘め事はかなり残っていますね。
というか、終盤だからこそ新たな秘め事ができているとも言えるかもしれません。


その一方、主要キャラの中で当初はイヴ以上に秘め事と無縁だったキャラがいました。
それが江火野さんでした。

江火野さんの秘め事


江火野さんといえば、曲がったことが嫌いで隠しごとは無し。
鎌倉武士のやあやあ我こそは(今は諸説あるけど)みたいに、真っ向勝負を好む印象です。
素直な心で人に接することができるのは、江火野さんの美徳でしょう。


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自分の気持ちにも、素直になれる


しかし、今は少し違います。
その心に、一点の曇りがないわけではない。
指宿くんの秘密を知ったことで生まれた江火野さんの秘め事が、彼女の心を揺らしています。


それは自分に関するものではなく、指宿くんが女の子であるということを、周りに……より正確に言うのであればタロウに秘めること。
指宿くんのためだけであれば、それも江火野さんらしいと言えたかもしれません。


ただ彼女はそれだけじゃなくて、自分のために秘めている。
その情報がタロウに伝わることが、自分にとって良いことではないことを何となく感じている。


他社の情報を半ば自分のために秘めているというのは、他のキャラと大きく違う点でしょう。


例えば朱々子も同じ秘め事を持っていますが、彼女がそれを秘めているのはあくまで指宿くんのため。
むしろ朱々子にとっては、明らかにしたいものです。これは指宿くんの祖母も同じでしょう。


作中で最も素直なキャラだった江火野さんの秘め事は、ある意味では最も自分の醜さを突きつけるものになっています。
秘密もなく、まっさらだった江火野さんに、その秘め事を背負わせる。
これが峰波りょう先生の怖いところ。


ではなぜ、江火野さんがそういった秘め事を背負うことになったか。
それは江火野さんが、自分の弱さと向き合うためじゃないかなと思っています。


初恋ゾンビというラブコメは、作中で描かれた恋だけではなく様々なことを通して主要キャラが成長していきます。
人と出会うことで、体験をすることで、学び変わっていく。
そんな姿を、この作品は作中で描いてきました。


江火野さんの素直さは美徳です。。
ただ、世の中の物事全てが素直に話せば良いというわけではありません。
そういう意味では、江火野さんは己の内に留めておけないという弱さがあると見ることができます。


悪気はないとは言え、秘めておくことで誰かが傷つくこともなかったのではないか……という場面が無かったかと言えば嘘になります。
素直に話すことで、指宿くんが心を痛めてしまうこともありました。


だからこそ、自分の弱さと向き合うために、江火野さんはこの秘め事を背負うことになったのかと思います。
秘めることの苦しさを知り、それでも秘めざるを得ないことを背負うことで、峰波りょう先生は江火野さんを弱さと向き合わせたのではないでしょうか。
江火野さんに与える試練としては、これ以上のものはそうないでしょう。


エビナーとしては、非常に心苦しい展開です。
けれど、この秘め事を乗り越えた先の江火野さんを、少なくとも私は見たい。
今苦しんでいて、これからもっと辛い想いをするかもしれないと分かっていても、それを乗り越えた江火野さんに私は出会いたい。


今はそんなことを考えています。

まとめ


いつものような感想ではなく、考察というより雑感という形です。
ただ、江火野さんにとっては一番苦しい形で内に秘めなければいけないことができてしまっているよなあとはずっと思っていて。
それが彼女にとって、どういう意味をもたらしているのか……というのをふと考えてたくなってこの記事を書きました。


改めてこのラブコメは深い。面白い。
5巻まで読めばもうハマって抜け出せないからみんな読もう!


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