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「初恋ゾンビ」幼なじみが浮かべた笑顔が、辛くて……

ヒロインの笑顔を見ると、幸せな気持ちになる。


ラブコメ漫画をこよなく愛する私ですが、どのラブコメでもヒロインの笑顔が1番幸せな気持ちになれる……と強く思っています。
それだけの力がある、というのは事細かに説明しなくてもご理解頂けるでしょう。
ヒロインの赤面と笑顔は国宝物、これが世界のルール(狭い世界かもしれませんが)


しかし、初恋ゾンビ最新話で、誰かを想って作る悲しい笑顔をもあるということを改めて教えられました。
気を遣わせないために、心配させないために悲しみをこらえて浮かべる笑顔もあるということ。
江火野さんが、私の大好きな幼なじみが……ね。

震えるその手を握ってあげたいだけの人生だった

タロウは指宿くんや江火野さんへの想いに向き合わず、イヴと共に生きることを決めました。
でもそれは、タロウの理屈です。
関係は相手と紡ぎあげるもの。
タロウが一方的に向き合わないとしても、相手が納得しない限り望む関係性に落とし込むことはできません。


江火野さんの話を聞かず、一方的に打ち切られた江火野さんの想い。
フラれたという事実はあっても、分からないことが多々あり到底納得できるものでもありません。
けれど、自分が納得して前に進むために、今何をすれば良いかが分からない。


だから江火野さんは、タロウにもう一度会って、自分がどうしたいか、何をするかを確かめたかったのでしょう。
ただタロウと家の中で二人きり(イヴがいるとは言え)で会った時、その時の江火野さんはまだどうするかが定まっていなかったのでしょう。
タロウの会話に合わせて、まるで何も無かったかのように、幼なじみとしての会話を交わします。


タロウのおでこの絆創膏が取れて、タロウが完治したという報告を聞いて。
かつての江火野さんに取って、いつまでも治らないタロウの額の傷は心配の元でした。
自分の知らないタロウの表情や行動が、この傷のせいに思えて。
その傷が治ったのは、喜ばしいことです。きっと本来なら……


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作った笑顔が、痛々しい


何でも無い風を装うために、江火野さんは笑わなければならなかった。
タロウのために、笑顔を作ってあげなければいけなかった。
きっとそうしないと、タロウが困るだろう。


江火野さんはそんなことを考えて、努めて「幼なじみとしての自分」を演じていました。
痛々しいくらい、それが伝わってくる。


この傷は、かつては江火野さんの心配の元だったと思いますが、変わっていく二人を繋ぐ証だったような気がしています。
9巻で自分が変わっていることを江火野さんが自覚するエピソードも、タロウの傷が密接に関わっていて。
それが治ってしまった時、タロウと自分の繋がりが無くなってしまうような感覚さえ、江火野さんには合ったかもしれません。


でもそれを顔に出さないように、江火野さんは一生懸命笑顔を作りました。
笑える気分なんかじゃ、あるはずがないのに。
前回の感想で、世界一切ない笑顔だと言いましたが、あれは嘘です。
今回の方が10倍切ない。
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でも本当の悲しみは、その後に広がることをまだ知りませんでした。
タロウと別れた後の江火野さんの姿はもう、心がバラバラになりそうなくらい悲しかった。


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痛みが伝わる


こんなに辛そうな江火野さんは見たことが無かった……


悲しみも苦しみも、紙面を飛び越えて読者に刺さってくる。
好きな人と話すのが怖い。
おばけ以外で江火野さんが怖いと明確に言うのは、恐らく初めてでしょう。
本来ならば嬉しさや楽しさが勝る行為なのに、怖いと感じてしまう江火野さんの震える手を、握ってあげたい。


タロウの前では震えを隠していた江火野さんの手を、ただ握ってあげたいんだ……


江火野さんの作った笑顔に、タロウが気づいていたかは分からない。
ただ気づいていたとしても、何も変わらないだろう。
タロウは向き合わないことを決めたのだから。江火野さんが震えていたとしても、そこに気づけば寄り添いたくなってしまうから。


江火野さんの姿は、エビナーの私の心を激しく揺さぶってきました。
ただただ悲しくて辛い。
心から笑っていて欲しい、そんなことばかりを読んでいて思ってしまいます。
全てを投げ出して、時空も次元も超えて、江火野さんの悲しみを分かち合える存在になりたい……

全てはきっと返ってくる

タロウサイドから見ると、今回の江火野さんや龍の来訪は喜ばしいものではありません。
龍たちが江火野さんから色々と聞いていることも理解していて、居心地の悪い部分は当然あります。
でも今のタロウは、イヴのためにある意味では開き直っている部分もあるなと感じました。


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イヴを悲しませないために


タロウは、江火野さんたちの初詣の際に、気を使ったイヴに一緒にいようとはっきりと伝えます。
その際に、イヴが泣く可能性を否定していないんですよね。
イヴが泣くのは、タロウが江火野さんに心惹かれた時。タロウの心が揺らがなければ、起こりうるはずがありません。
しかしタロウは、その可能性を否定しなかった。心揺られることを否定しない上で、揺らさないためにもイヴに側にいて欲しい旨を伝えていたのだと思います。


守るべき対象を、大切にしたい存在を、1番近くで感じることで揺らがないように。
向き合わないことを決めたことで、イヴを守る強さを、タロウは確かに手に入れたのかもしれないと感じるシーンでした。
認めた上で、どうするべきかを考える。
それができているタロウは、正しいかどうかはさておいて、指宿くんや江火野さんにとってはかなり手強い相手になっているでしょう。


話の展開的にどこから揺さぶってくるか、というのはなかなかに悩ましい。
親友である龍が何か動くかな?とも思いましたが、江火野さんに今は止められているようです。


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今はただ、見守るだけ


本当は龍も思うところが多々あると思いますが、江火野さんの頼みもあって今は様子見というところ。
そもそも龍たちが干渉すべきか……という問題もありますが、初恋ゾンビにおいては、干渉しても良いと私は思っています。
なぜならば、タロウ自身が他人の恋に散々介入してきたから。


恋心というのは、非常にデリケートなのは言うまでもありません。
タロウは初恋ゾンビが見えるとは言え、これまで多くの恋心に干渉してきました。
そのタロウが、自分の恋の時に他人の干渉をはねのけるというのは筋が通りません。


良くも悪くも、自分がしたことは自分に返ってきます。
紡いできた様々な縁の結果を、タロウは受け止める責任があるのではないでしょうか。
最近初恋ゾンビを読み返していて思うことは、タロウがカップルたちに対してやってきたこと、投げかけてきた言葉が、今度は自分自身に返ってくるんじゃないかということです。


例えば天草さんへの恋心を持っていた龍に、タロウが"「あの時もう一度声かけてたら」をずっと考えてたら寝覚めが悪いぜ"と焚きつけるような言葉を言いました。
いつかこういう言葉が、タロウ自身に返ってくるかもしれない……今はそんなことを思っています。


指宿くんや江火野さんの想いももちろんあるけれど、1番注目しているのはタロウの心の揺れ動きです。
誰がどんな言葉をタロウにかけるのか、どんな表情をタロウに向けるのか。
そしてそれを受けて、タロウは何を思うのか……見守りたいと思います。

まとめ


峰波りょう先生は、江火野さんの笑顔だけで読者を殺すつもりですね。
切なすぎて軽く10回はHPを0にする破壊力がありますが、江火野さんが泣けるその日まで、エビナーは倒れてやらないからな!



表紙のイヴの振り袖姿が素晴らしかったんですが、おみくじの結果が少し気になってしまいました(笑)
ぜひ単行本のおまけで、イヴのおみくじの結果もみたいですね(笑)


画像引用元
初恋ゾンビ/峰浪りょう/小学館

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