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好きなことを支えに、この世界を生きていく。「ブルーピリオド」が最高に痺れる

ブルーピリオド(1) (アフタヌーンコミックス)


好きなことは趣味でいい
これは、私が人生の進路を決める際に、周りからよく聞く言葉だった。
失敗したりうまくいかなかった時に、好きだったことが嫌いになってしまうから……と。
私はそれを聞いた時、たしかにそうかもなと思った。


ところがブルーピリオドの主人公・八虎は、それとは異なる考えのもとに自分の進路を決定していく。
彼は一見すると不良だが、誰とでも付き合える要領のいいタイプで、成績も優秀。
だけど夢中になれるようなものはなく、周りとバカをやっていても、どこか冷めているような人間だった。


そんな彼が、夢中になれるものと出会い、それを支えに生きていくことを決める。
これが最高に熱くて、痺れてしまった。

本音を言うことの怖さと、伝わった時の嬉しさ


前述の通り、八虎は人付き合いも勉強も、人並み以上に優れていて。
彼からすると、どちらもノルマをクリアする楽しさに近いらしい。


クリアするためのコストは人よりかけていて、それが結果につながっている。
普通ならば、それで満足感や達成感が得られるはず。
しかし、彼は褒められるたびに虚しくなる。心はまったく満たされない。


きっとそれは、八虎が本当にやりたいことではないからなんだけど、今の彼はそれに気づけない。
これが、彼の当たり前だったから。


絵を描くという行為の意味は、多分1つではない。
それでも自分が見たもの、感じたこと、描きたいと思ったことを絵に込めるという意味では、自分を晒すという意味合いがあると思う。
自分を晒すということは、八虎がもっともやってこなかった行為だ。
無意識のうちに、否定されることを恐れていたからだろう。普通の人にとってももちろん怖い行為ではあるが、どこか仮面を被って生きてきたような八虎は、人一倍怖がっていた。


ただ美術部の先輩の一言をきっかけに、美術の課題で八虎は「好き」を形にすることを決意する。

あなたが青く見えるなら りんごもうさぎの体も青くていいんだよ


先輩の言葉は、昔先生に言われた言葉らしい。
恐らく、表現者に取って、自分を晒せるというのが最初の登竜門的なものなのかもしれない。
例え他人にはそう見えなくても、そう感じなくても、自分の感性を表現できるということが。


そして八虎は、自分の見たこと、感じたことを、美術の課題に込める。


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自分を晒す怖さと、向き合う


好きなものを好きという怖さを知っても、今はただ絵に己を込めて。
八虎は、誰かに伝わって欲しいと思って描いてはいなかっただろう。
自分自身で、納得できる出来でもなかった。


しかし描きたかったものが伝わった時、信じられないくらいの嬉しさを八虎は感じた。
自分の感性を、自分の「好き」を共有できたことの悦びを、知ってしまう。


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それはまさに、絵を介した会話だった


熱くならずに生きてきた人間が、自分を晒すほどの熱を持つようになって。絵を描くことに、前のめりになっていく。
その姿に、心の琴線を鷲掴みされた。

「好きなこと」を支えにこの世界を生きていく


遊びでも勉強でも得られなかった実感を、八虎は絵を描くことで手に入れる。
彼は、絵を描く悦びを知った。
じゃあそれを一生懸命やるか?と言われればそうではない。


世間一般からすれば、八虎は上等なレールの上を今も歩いている。
「好き」に人生を捧げるなんて簡単に言えるほど、八虎は幼くなかった。


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絵は趣味でいい。それはまるで、自分に言い聞かせるように


また、自分にそんな熱量も無いと思っていたのだろう。
けれど気がつけば絵を描いている。あの日の熱が、胸の中でくすぶっているのだ。
描きたいものばかり、浮かんでくる。
どうやったらうまく描けるかなんてことを、ついつい考えてしまう。


1つの思いが、いつしか八虎の頭の中にあって。
でもそれを口にする勇気がない。選択する強さがない。


ただ八虎は、出会いに恵まれている。
自分の感性を表現することを先輩に肯定してもらえた時のように、八虎のくすぶった思いに火をつけてくれる存在がいた。
美術の先生に、絵の技術的なことを聞きに行った際に、八虎は勇気を出して1つの思いを口にする。

美大って、俺入れると思います…?


美大は入るのが恐ろしく難しい。現役での合格ならば、東大よりも難しいという見方もあるくらいに。
叶う確立の低い夢を、それもついこの間から絵を書き始めたような少年が口にする。
周りからみれば愚かだということを、八虎は痛いほど理解しているだろう。


普段のクールさなんて完全に失われていた。
それでも怖さを乗り越えて言葉にした八虎は、どうしようもないくらいカッコよかった。


先生は、無責任に肯定などしない。ただ、こういっただけだ。


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八虎の心に、火が灯る


好きだからこそ、うまくなりたい。人生を捧げたい。
絵を描くことを支えに、この世界を生きていきたい。
どうしようもない熱が、八虎の体を火照らせているのが分かってしまった。
泣きたいくらい、分かってしまった。


人生にifは無い。
けれど、少しだけ考えてしまう。
人生の岐路で迷った時に、火を点けてくれる存在と出会っていたら、自分は違う選択をしたのか……と。


この作品もまた、心に火を点けてくれる存在と言えるだろう。
「好きなこと」を支えにこの世界を生きていきたい、そんな風に強く思ってしまった。。

終わりに


俺マン2017に参加した時に、パネラーの方々がブルーピリオドについて熱く語っていたのを見て、自分も記事にしたくなり今回の記事を書いた。
アフタヌーンは昔から好きだけど、新連載では久々に、胸を熱くするようなマンガが出てきた気がする。
マンガ好きを完全に刺しにきている。こんなの絶対好きになるに決まっている。
読む手に力が入ってしまうような痺れるセリフが数多く登場するのも、本作の大きな魅力だ。心をどうしようもないくらい揺さぶってくる。


各店舗で品薄だったようだけど、最近補充されたらしい。


痺れるくらいおもしろいので、ぜひ一度読んで欲しい。本当におすすめしたい。
1話は無料公開中。


afternoon.moae.jp

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