10月終わりに買った単行本が、とても良かった。
色々あって感想書けてなかったんですが、その漫画が「このマンガがすごい!WEB」でランクインしていたのを見て、書いていないことを思い出しました。
ということで、今回は「AV女優とAV男優が同居する話。」の感想です。
「どうしてあたしたち、こんな風に出会っちゃったんだろうね…。」柊梓と館石大地はともにAV俳優。ひょんなことから偶然同居生活を送ることになった二人は、互いの仕事への思いと日々の時間を重ねるうちにどんどん距離が近づいていく。そんな中で始まった、淡く小さな恋。だが二人を待っていたのは、凄惨で冷たい現実だった――。
恋に落ちてしまった二人
お金がなかったAV女優・梓はルームシェアというのを条件に、格安でアパートに住めることになりました。
そのルームシェアの相手もまた、同じ業界で働くAV男優の大地で。
同業者の分、気を使わなくて住む。
お互いそう思って、フラットな関係を築いていきました。
大地の、女優さんだから抱かないといけないのかな?という考えが頭をよぎったという話に、梓は笑って答える。
金にならないセックスはしない。
この時はまだ、大地とそういう関係になる可能性を考えていなかったのがよく分かる。
多分、抱かれることは仕事になっていて、それ以外の意味を忘れかけているのだ。
別に、忘れることが悪いわけではありません。。
しかし、彼女たちは心を通わせてしまった。惹かれ合ってしまった。
日々のちょっとした仕草に、言葉に、ときめいて。
少しずつ、心の距離が近くなっていく様は、読んでいてニヤニヤする。
読んでいてニヤニヤするのに、作中から溢れる「触れたら壊れる」雰囲気は、一体何なのだろうか。
ああ、壊れた。
たった一言が、彼らが築いてきた小さな日常を壊していく。
心を通わせる前だったら、少し戸惑うだけで済んだかもしれない。
お互いに苦笑して、ゆっくりとカメラの前に向かっていたかもしれない。
でも今は、そうではないのだ。
日常が崩れていき。諦めだけが広がって。
それでも、願わずにはいられなかった想いが、ただただ切ない。
心に刺さるってこういうことなんだ。
胸が、痛い。
彼女たち以上に、読者が止めて欲しいと願ってしまう。
錆びたナイフで、何度も刺されているような錯覚を覚えてしまった。
彼女がそのときのことを思い出し、気持ちよかったと泣いてしまうのがまた切ないのだ。
好きな人と、体を重ねられる喜び。
本当は、二人だけのものにしてしまいたかった記憶。
しかしそれは、彼女たちだけのものじゃない。
いやむしろ、彼女たちのものではないのだ。
だからこそ、この漫画はたまらなく切なくて、心に刺さるのだろう。
ビター中のビター。でもバッド・エンドではない。
別の出会い方をすれば……、そう思ったのなら。
この続きは、単行本で確かめて欲しい。
心に刺さる短編
他の短編も、心に刺さるものばかりです。
全体的にビター。完全に救うことのできない物語もあります。
やはり、妹が兄に恋する話は印象的でした。
兄妹の好きじゃなくて、異性としての好き。
兄もきっとそうだと思いこんで。タガが外れて、抑えきれなくなった言葉が鋭く刺さる。
優しくしたいのに、傷つけたくないのに。
誰かが傷つく選択しかない展開そのものが、すでに読者の心をグサグサと抉る。
その生々しさに、どうしようもなく魅了されてしまう。
心が痛いのに、目が離せない。そんな作品ばかりです。
終わりに
表題作は、コミティアで出されたものらしいですが、しばらく参加していなかったので私は知りませんでした(笑)
ただ、作者の方は、昔どこかで作品を読んだ記憶があるんですよね。
それがどんな作品だったか思い出せないのが、何か悔しいわけですが。
読み直したいから、頑張って思い出したい……
(多分web漫画だったと思うんだけど)
心に刺さる作品が好きな方には、たまらない作品だと思います。
寝込んで動けなくなるほどではないけど、小一時間くらいは少しため息しか出なくなるかもしれません(笑)
【試し読み】
comic.pixiv.net