タイトルにも書いてあるけど、この記事はネタバレありの記事なので注意。
初めに書いておくが、私は新海誠が好きでは無かった。
オタクらしく文脈を語ると、最初に見たのは「ほしのこえ」。
盛岡のレンタルビデオ店で初めてその作品を見たとき、これを個人で作ったのかと、驚いた記憶がある。
次に見たのは、「あの雲の向こう約束の場所」。
私が当時、新海誠に期待していたほどではないけど、普通に楽しめる作品だった。
だけど、「秒速5センチメートル」が絶望的に合わなくて、私は新海誠の作品を見なくなった。
間違った見方をしたのかもしれないけど、女々しいというのが、この作品を見た時の私の感想だ、
かつての恋を振り切った作品だ、と後から人に言われたから、今見ると違って見えるのかもしれないが。
新海誠に興味を失った僕は、オタク失格かもしれないが「言の葉の庭」を見ていない。
それくらい、「秒速5センチメートル」が、当時の私とは合わなかった。
今回、「君の名は。」を見たのは新海誠が大衆よりの作品を作ったというのを、耳にしたからだ。
アニメも1クールに1~2本。社会人になってから、私からオタク的な要素は抜けていった。
ぜいぜい、月に漫画を50冊程度読むくらいだ。
今なら、新海誠の作品が楽しめるかもしれない。
そう思って、カップルの少ないであろうとしまえんで、私は一人「君の名は。」を見た。
目を奪われる色
綺麗だ。
それが、初めに受かんだ感想だった。
鮮やかな色使いに、私の目は奪われた。
新海誠の作品の色使いが、鮮やかだということを知っていてなお、素直に綺麗だと感嘆した。
鮮やかに描かれた空を、星を、見上げた。
任天堂ハードのゲームしかやったことが無かった小学生時代に、イースエターナルのOPを見た時も、同じような感想を持った。
難しい言葉は出てこなくて、ただただ、「綺麗だ」という感想しか出てこない、美しい色使いに、冒頭から心を奪われた。
名前より、伝えたかったこと
携帯の日記でしか相手を認識できなかった二人が、遂に出会うシーンがある。
忘れないように、互いの名前を手に書こうとするシーンだ。
瀧が三葉の手に文字を書いて、相手が書こうと瞬間に、別れが来てしまう。
別れたあと、大災害を防ごうと走る三葉。
しかし、途中で瀧の名を忘れてしまう。
懸命に、自分を奮い立たせながら走る三葉。
誰もが思ったはずだ。その手の中を見ろと。
三葉が転んだとき、彼女は勇気をもらおうと、その手に書かれた文字を見る。
……そこに書かれていたのは、名前ではなかった。
名前より伝えたかった、瀧の気持ちだった。
もし、名前を書いていたら、その後の展開はもう少し違ったものになっていたかもしれない。
それでも、瀧は名前より気持ちを伝えたかった。
忘れてしまう前に、伝えたかったのだ。
好きだという気持ちを。
青臭い。
正直に書いて、青臭い。
でもその青臭さに、どうしようもないくらい心が揺れた。
名前より伝えたかった気持ちが、作品を通してあふれてきた。
僕が新海誠に、完膚なきまでにやられた瞬間だった。
手のひらのしずく
この作品の大きなポイントの中に、夢の儚さというものがある。
夢は忘れやすいもので、時が経つに連れ記憶が薄れていってしまう。
瀧と三葉の入れ替わりも、まさにそういう儚い夢の類いだった。
忘れたくないという二人の気持ちさえ、少しずつ薄れていってしまう。
作品を見ながら、私はGS美神の「手のひらのしずく」という言葉を思い出していた。
君の名は。を見たGS美神好きは、このシーンを思い出したはず。少なくとも私は思い出してた! pic.twitter.com/jU6PB7A51A
— ふな (@hosome252) 2016年8月30日
夢は儚く、泡のようなものかもしれない。
それはいつか消えてしまうのかもしれないけど、すべてが消えるわけではなくて、手のひらにはしずくが残る。
この作品は、その手のひらのしずくが、元は何だったかを追い求めた作品だった。
新海誠は、奇跡を描く人らしい。
この作品で描いた奇跡は、何だったのだろうか。
私にとっては、この広い東京で、手のひらに残った、わずかなしずくを手掛かりに、二人がもう一度出会えたことが一番の奇跡だ。
瀧にとっては5年。三葉にとっては8年。
薄れゆく記憶の中で、確かなものは何一つなくて、何かを探している感覚だけがあった。
その感覚が、まさに「手のひらのしずく」だったと思う。
そのわずかな「手のひらのしずく」を頼りに、二人はもう一度出会う。
今度こそ忘れないようにと、相手の名前を問う。
「君の名前は」
恥ずかしいけど、泣いた。
終わりに
レイトショーで見たので、映画館を出るころにはもう日付が変わりそうになっていた。
心が震えて、とても落ち着いていられなくて、としまえんから1時間かけて家まで歩いて帰った。
エネルギーを放出しないと、とても寝られそうになかった。
結局、新海誠が大衆向けに作ったかは、私には分からない。
でも、少なくとも私にとっては、心を強く動かす、すごい作品だった。
シン・ゴジラとは違うベクトルで、人と語りたいと思った映画だった。
合わない人は、もちろんいると思う。
でも、新海誠が好きじゃなかった私が、こんなにも心を揺らされたから。
きっと、誰かの忘れられない作品になる。
そう思っている。