いやあ、凄い。
私は短篇集が大好きなんですが、昨年末になって素晴らしい作品と出会ってしまいました。
それがこの、「夜をとめないで」です。
- 作者: ハルミチヒロ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2014/11/28
- メディア: コミック
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美しい表紙に惹かれて買ったこの作品ですが、内容が濃くて魅了されてしまいました。
「重ねる」ということ
表題作、「夜をとめないで」は男に捨てられて人生諦めモードになっていた夕夏と、支社に転勤させられた塩田が一晩を共にする話です。
落ち込みモードだった塩田も、今にも消えてしまいそうな夕夏が心配になり、旅館で何とか楽しいことをしようと料理をいっぱい頼んだり。
自分のためにちょっと一生懸命になっている塩田を見て、微笑む夕夏が可愛い。
お酒を飲んで、少しずつ自分たちのことを話す。
夕夏を励まそうとして、逆に夕夏に励まされる塩田。
塩田は上手く言えませんでしたが、「死んでほしくない」という想いは痛いほど伝わってきました。
もっとちゃんと伝えたいのに。上手く言えないことが、悔しい。
悔しくて涙を流す塩田を、優しく夕夏は抱きしめました。
自然と肌が重なりそうな展開でしたが、塩田は一度は拒みます。
しかし「じゃあやめるね」、そういった彼女の寂しげな微笑みがあまりにも切なくて。
塩田はその後肌を重ねることを選択しましたが、それは彼女を繋ぎ止めるために見えました。
男の人も泣くということを、知らなかった彼女。
肌を重ねて、心を重ねて
良いシーンですが、何というか柔らかで抱きしめたくなるような女性を描かれると色々と滾る。
成人している女性キャラを、こんなにも愛おしく想ってしまうのは私にしては珍しい。
この後に見せる幼さがまた良いんですよ。
巻末のオマケでの幸せそうな姿に、私もニッコリ。
シャンプーの匂い
「シャンプーリンスコンディショナー」という話では、昔の彼女が使っていたシャンプーの匂いがトラウマになっているという話です。
この話は、男のウジウジした感じが凄く良く分かる。
女々しいという漢字はありますが、男のほうが昔を引きずる印象(当社比)
この中年男性は、ひどい振られ方をしてしまい、そのことがトラウマになっています。元カノのシャンプーの匂いは、それを思い出させるトリガーでした。
街中でそのシャンプーの匂いを嗅ぐ度に、昔のことを思い出す。
職場にも使っている女性がいて、酔った際にその女性に対し元カノの名前を言ってしまうという失態。アチャーです。
そこからが面白い展開でした。思い出の上書き作戦です。
元カノとその女性が使っているシャンプーを自分も使うことで、慣れてしまおうというもの。
前向きな発想です。それが年寄りには辛いこともあるんですが。。。
もう1回傷つくのが怖くて、踏み出せない。平気なふりをして、ごまかす。
弱い自分を守るために。深く関わることを拒んで。
逃げの姿勢ばかりを見せる男性を、女性は一喝します。
何で捨てられる前提で話すのかと。なぜそれが決まっているかのように話すのかと。
そういうこともあるかもしれないってリスクを回避したいだけだ、と男性は言います。
私も思わず、同意しかけてしまいましたが。傷つくって、やっぱり怖いから。
まあ、もうこんなこと言われたら負けなんですが。
想って泣いてくれる泣き顔が、ちょっと崩れているにも関わらずあまりにも可愛くて。
心に熱が伝わってくる。
「あきらめないでがんばって 好きにならせて下さい」
こんなに良い子に好かれるなんて、とマンガのキャラにちょっと嫉妬したね。
ちなみにその後、シャンプー効果で男性にもモテ始めたんですが、「佐々木さんは私のですよ」とガードに走る彼女がたまらなく可愛かった。
様々な女性が描かれたこの短篇集に、すっかり魅了されてしまいました。
少しダウナーな要素もありますが、全体として最後には1つの救いの形を示してくれているのが個人的には大好きです。
駄目な中での、駄目なりの救いではなく、前向きな救い。頑張ろうって思えるもの。
良いなあと、心から想いました。
上の方でも触れていますが、女性が凄く魅力的なんですよ。柔らかな輪郭に、強さと弱さを内包していて。
抱きしめたいし、抱きしめられたい。そんな風に思ってしまいました。
ちょっと人肌が恋しくなりますね。。。
ベルベット・キス 1 (バンブーコミックス COLORFULセレクト)
- 作者: ハルミチヒロ
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2012/10/18
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- 作者: ハルミチヒロ
- 出版社/メーカー: 竹書房
- 発売日: 2014/09/11
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