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透明感のある橋本紡が好きだった

透明感のある、橋本紡が好きだった。

半分の月がのぼる空―looking up at the half‐moon (電撃文庫)
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橋本紡の新作を読まなくなってから、もうかなりの時間が経つ。
確か、空色ヒッチハイカーを読んだ時だ。
あの作品以降、私は橋本紡の新作を読まなくなった。


結局、私が読んだのはリバーズ・エンドや半分の月がのぼる空のような、彼が電撃文庫で書いたライトノベルだけだ。


空色ヒッチハイカー (新潮文庫)
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空色ヒッチハイカー以降、橋本紡の新作は読まなくなったが、この作品が駄作というわけでは全くない。
ストーリー自体は、実に面白く主人公の感覚も実にリアルだった。
だが、私が橋本紡に求めていた要素はリアルさではなかった。透明さだったのだ。


空色ヒッチハイカーは、完璧な兄の幻影に惑い葛藤する少年の話だ。
いわゆる青春をテーマにした作品だと言える。テーマとしては、私も好きなものだ。


しかし空色ヒッチハイカーは、私には生生しかった。
具体的に言うと、性行為の描写が当たり前のように存在していたことだ。
橋本紡が書きたいものと、私が求めているものはきっと違う。
そんな風に感じて、私は新作を読むのをやめた。


私は、橋本紡が描く少年が何となくセックスと無縁の存在だと思っていた。


別に性交渉を嫌悪しているとかそういうわけではない。
性の目覚めは小学生のころに読んだギャラリーフェイクとか愛しのバッドマンだった気がするし、空色ヒッチハイカーを読んだのは中学3年生の時のことだ。
小学生のころ希望の国のエクソダスにその単語が出てきたときは少し気持ち悪くなった記憶はあるが。
その当時中学生で性欲旺盛だった私に、抵抗があったわけではない。


それでも私が橋本紡の作品を読まなくなったのは、彼に対して「綺麗なお話」を求めていたからだろう。
互いの体を求めない、肉欲の薄い関係。
好きだから傍にいて、手をつなぎ共に歩く。
そこで終わる物語が好きだった。


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半分の月がのぼる空だけでなく、エバーズ・エンドもまた透明感の強い作品だった。
キャラが立っていないわけではない。
しかし彼らには、何というか体臭が無い。あるいは薄いよう思った。
リストカットをするヒロインもいた。しかし彼女もまた体臭のないキャラだった。影がないと言っても差し支えないかもしれない。


王子様とお姫様が、SFや病気などを乗り越えて「綺麗な恋」をする。
そんな橋本紡の作品が好きだった。


半月の主人公、裕一はリバーズ・エンドのキャラに比べれば幾分か体臭を感じさせるキャラだった。
いや作品としても、多分そうだったろう。
それでも私は、透明感をこの作品に感じていた。


エロ本を燃やそうが主治医が昔不倫してたとか、そういう描写があってもこの作品は透明だった。
それはヒロインが病気であり、なかなかそういう行為を連想させにくかったからなのかもしれない。


半月のその後を考えると、何らかの性的な干渉は行われるだろう。完全版には、そういうシーンがあるかもしれない。
だとしても、私は二人が共に生きていくことを決めたときに終わった半月が好きなのだ。
里香の母の前に裕一が立ち、里香が裕一を受け入れたときに私の中の半月は完結したと言ってもいい。


私は、性的交渉を行う前に物語を終わらせる橋本紡が好きだった。
少年たちの青春を描きながら、いつか来るであろうそれを描かずに終わる。それはある種のファンタジーだった。
体を求めず、心を求める。そんなファンタジー。
肉欲から解放されたかのような、透明感。
そんな透明感を持った橋本紡の物語は、私は本当に大好きだった。


私はここ6年、彼の空色ヒッチハイカー以降の彼の作品を読んでいない。
もしかしたら、私が好きだった透明感のある作品も描いているのかもしれない。
それはもう、今の私には分からないことだ。

それでも、1つだけ確かなことがある。
私は、透明感のある橋本紡が好きだった。
それだけは、これからも変わらない。


私のそれは、完全に迷惑な読者の勝手な要求だとは分かってる。好きだったことだけ、忘れないようにしたい。

※追記
今も好きな人、気を悪くされたらごめんなさい。あくまでリバーズエンド頃の作風が、私好みだったという話です

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