いつかたどり着く

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それは、心の奥底の繊細な部分に触れてきて。「はじめてのひと」が、素晴らしい

谷川史子の作品は、いつも僕の心の琴線に触れてくる。


心を鷲掴みにしてくるような作品も好きですが、谷川史子の作品は、優しく心の奥底の繊細な部分に触れてきます。
それはまるで、傷を優しく撫でるように。


そんなポエミーな文章が恥ずかしくないくらい、この作品は素晴らしい。
描かれる短編どれもが心に響いてきて、誰かにその良さを伝えずにはいられない。

それでも、一緒にいたいという気持ち


はじめてのひと。
この言葉から、何を連想するでしょうか。


僕は正直に書くと、初めて体を重ねた人を連想させる言葉だと思っています。
最初に描かれた短編でも、それを想起させるような展開でした。


物語の主役の女性は、付き合っている彼氏と仲睦まじい様子を見せています。


いつまでも続くと思っていた日常に訪れる、ちょっとした転機。
かつて初めて体を重ねた人からの、本当に僅かなアクション。


想いが残っているということでは、全く無くて。
彼女にあったのは、初めては一番大切な人とするべきだったという後悔。


心と体の一番無防備なところを、相手に委ねる。
本当に好きな人と出会ったからこそ、それがどんなに幸せなことかを実感して。


だからこそ、大切にしなければならないことを粗末にした気持ちが強くて、彼氏に引け目を感じるという展開でした。


僕には女性の気持ちは分からないけれど、体を重ねるという行為を大切にしたいという気持ちは、何となく理解できる。
好きな人と、心と体を重ねられるというのは、本当に幸せなことだと思う。


自分を大切にできなかった、愛情を粗末にしたという彼女の後悔を、優しく彼氏が受け止めてあげるシーンが良かったです。
言葉を紡いで、優しく傷を撫でる。
更には、力強く深く沈んだ心を引っ張りあげる。


このシーン、非常に良いなあと思ったんですが、本当に震えるようなシーンはこの後にありました。


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体を重ねた後にみる、彼氏の背骨。
この物語で何度か描かれていますが、それはきっと、愛しさの象徴なのでしょう。


でも、より深く心を重ねた後で見る背中への想いは、少し違っていました。


初めは、穏やかで幸せな象徴として。繰り返される変わらない日々として。
このシーンでは、それ以上無い幸せと、共にいることで生まれる寂しさを予想して。


心を深く通わせたことで、生まれた不安。
それでも「いっしょにいたい」と思わせてくれた、はじめてのひと。


涙ぐみながら、背骨にキスをするそのシーンが、どうしようも無いほどの愛しさを感じさせて、切ない気持ちになりました。
このシーンはまさに、「幸福」と「さみしさ」を感じさせながら、それ以上の愛しさを読者に伝えてくる、非常にすてきなシーンでした。
僕の心の琴線に、そっと触れてきます。


好きにならないわけが無いじゃないか!


ずるいなあ、もう。

泣き顔が好き


谷川史子の描く泣き顔が好きです。
これは、僕だけじゃないと思っています。


非常に透明感のある物語を数多く描いていますが、谷川史子が描く涙は、その透明感の象徴とも言えるものだと思います。


人の心の奥底の繊細な部分を描いている以上、無色透明というわけありません。
それでも描かれる涙は、どこか透き通るようで。


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表現するのが凄く難しいけど、泣けば心が透きとおるように。
多分、そんなに間違っていない。
心に溜まっていたものを、洗い流しているのかもしれません。


このシーンも、それまで溜まっていたモヤモヤが、涙を流すことで流れていくように見えて。
何かをギュッとしたくなる、そんな感情が生まれてきます。


泣いているシーン、僕は大好きです。

終わりに


谷川史子の作品は、前にも一度感想を書いたことがありますが、やはり魅力を伝えるのが難しい。
派手さは全くないけど、優しく心に触れてくる感じは、なかなか味わえないと思います。
高校生くらいの頃だったら、この作品の良さは、僕には分からなかったかもしれません。


ある程度歳を重ねた今だからこそ、響いてくるものがあるのでしょう。


何回も読みなおしてしまう、そんな素敵な作品です。


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