いつかたどり着く

読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

いつかたどり着く

漫画とかの駄文書く。

【レビュー】切なく、ほろ苦く、少しだけ甘い。「昇る朝日にくちづけを」

漫画 漫画-おすすめの漫画

この作品は、多分に切なさを含んでいる。
しかしダウナー系というわけではない。

切なくてほろ苦くても、ある種の救いにも似た甘さがこの作品にはある。
今日は、そんな短篇集のレビューをします。

昇る朝日にくちづけを (ヤングジャンプコミックス)

昇る朝日にくちづけを (ヤングジャンプコミックス)

つけられなかった「傷」


「鬼火の夜」という話には二人の姉と弟が描かれます。
仲の良い姉弟。両親を亡くしても、二人で強く生きてきました。


姉は弟を支え強く生きようとしますが、弟が姉弟を超えた感情を抱いていることを薄々感じていて。


夢を諦め、家族のために生きる生き方。最後に残るのは、家族の形を崩さないという意地。
しかしその生き方に疲れを感じた時、一線を踏み越えてくる弟。


半ば自暴自棄になり、弟に身を委ねる姉でしたが……


f:id:watari11:20140909214918j:plain


傷はつけられませんでした。
深い傷を、消えない傷を望んだ姉。異性として好きだった姉に、パワプロ的に寸前✕がつく弟は傷をつけませんでした。


つけられなったのか。つけなかったのかは定かではありません。
秘密は雪に溶けて、誰にも分からない。


とにかく、この姉の表情が印象的でした。
一面真っ白な雪の中で、それこそ雪に紛れて溶けてしまいそうな姉の儚さ。
どこか切なくて、ほろ苦い。


しかし抱かなかったことで家族の形を、新たに夢を紡ぐという救いを描いてくれました。
全体的に切ない物語の中で、こうした救いを示してくれるのが個人的に好ましい。


この姉の表情を見るだけでも、この漫画は買う価値あり。
魅入るとはまさに、このシーンのことを指す。

2つの朝日が眩しいという言葉


表題作、登る朝日にくちづけは3本構成になっています。
昔の話1本と、現代の話2本という構成。


昔の話は、はっきり言ってほとんど救いがありません。
村のために嫁ぎ、日々夫に暴力を受けながらも、幼なじみと会うことだけを励みに長い夜に耐えてきた少女。
恋い焦がれてきた少女が嫁ぎ、幼なじみの青年はある日少女を突き放してしまいます。


辛い夜を超えるために少女が取った方法は、夫を亡き者にすること。
その現場を見ても、青年は少女を繋ぎとめようととしますが、汚れてしまったと少女は断ります。


f:id:watari11:20140909215019j:plain


やっと朝日が登ってきて、少し眩しいという少女。
しかしその現場を見た青年が思った言葉は、「夜があふれた」でした。


この対比が非常に切ない。青年にとっては深い深い夜でも、少女にとってはようやく訪れた朝なのだと。
夜明けがまだ遠い時間でも、少女にはその瞬間こそが「朝」だった。


救われない。救われないよこれ!


読んだ時本当にちょっと文句言ってました(笑)


そしてその後、現代に物語は移ります。


シチュエーションこそ違えど、お互い好意を持っているのに上手く一緒になれない男女がいました。
今度は教師と生徒という関係で、世間体という壁があって。


物語は進んで、また同じような言葉が出てきました。


f:id:watari11:20140909222955j:plain


どうでしょうか。どんな姿に見えるでしょうか。
恐らく、救われたのかな……というのが絵からでも読み取れると思います。


2つの画像は、セリフは同じですが表情は大きく違います。
先に出た画像の方が笑顔ではありますが、痛々しい傷跡を抜きにしても諦めたように笑っているように見えます。
一方後の画像ですが、笑顔ではないものの何か大切なものを見つけることができた表情のように感じます。


朝日が眩しいのは、目を開けたから。自分に、自分の気持ちに向き合ったから。


眩しくて困るならば、どうすれば良いか。
答えはもうタイトルに書いてありました。


完全にやられた。上手すぎるぞこの構成……


もっと言えば、3本は同じ「昇る朝日にくちづけを」というタイトルですがそれぞれ
「黎明編」「暁編」「曙編」というサブタイトルがついています。


始まりを指す黎明、未明を指す暁、そして明け方を指す曙という構成でした。
ちゃんとそれに合わせて、登る朝日に合わせて救いを示してくれました。


もちろん、全てを救ったわけではありません。
昔と今の話には繋がりはあるけれど、やはり違う物語です。


だからこそ、少しだけ甘いんですよ。
切なくて、ほろ苦くて、でも少しだけれど、確かに甘い部分がある。救いがある。
それが「昇る朝日にくちづけを」という作品だと私は思います。


元気が出るようなタイプではないけれど、ゆっくりと胸に何かが染み入ってくるような感覚。
読後感がとにかく不思議な物語でした。読んでみれば分かるはず。

スポンサーリンク